3000年紀のパラダイムシフト

2999年、人類はどこにいるのだろうか?

西暦3000年を迎える頃、我々(学名=ホモ・サピエンス・サピエンス)はどこに住み、どんな暮らしをしているのだろうか?

私のパソコンの前に居座って、のんびりと囲碁をしている連中は西暦200年頃の哲学者達だ。中国の三国時代に生まれた竹林の七賢人達の中心メンバーだ。阮籍(げんせき)、嵆康(けいこう)、山濤(さんとう)は有名な儒者だった。しかし、優秀な彼らにも異次元のような現代で一体何が起きているのかは理解できていないに違いない。

2000年の節目に存在している我々は、1000年前の過去とは全く違う世界に居ることを知っている。しかし、これからの1000年の間に何が起きるかは知らない。予想することが不可能なほど変化が激しい。

たとえ、20年後、30年後の世界ですら予想不可能な、そんな世紀の節目に、我々は立っている。まさしく今、“人類のパラダイムシフト” が始まっていると言えるだろう。全ての常識がくつがえる時代が始まっている。

 

人工知能 “A I”

わずかこの10年余りで、人工知能“AI”は社会の至る所で活躍し始めた。ビッグデータを用いたマシンラーニング(機械学習)の進歩だ。この分だとあと10年もすると、社会の様相はすっかり変化しているだろう。

コンピューターの開発者はさらに進化を追い求め、汎用人工知能“AGI”の開発を進めているらしい。“AI”は囲碁や自動運転など一つのものに特化した技術だが、“AGI”は多面的で複雑な、人間の脳をモデルとした機能を持つと言う。しかし、これはまだ理論の段階だそうだ。

さらに、もっとすごいコンピューターの開発も進んでいる。従来のコンピューターとは比較にならない程の演算能力を持つと言われる量子コンピューターだ。量子物理学の研究者たちが考え出したものだ。これはサッカー場くらいの大きさのものだそうだ。その理論は私のような凡人には到底理解できそうにない。しかしこの実現は30年後に迫っているという。多分もっと早くに完成するに違いない。

テクノロジーの信奉者たちは、人間が解決できないできた戦争、不平等、飢餓、ウイルスといった人類の生存を脅かす問題までも、このコンピューターが解決してくれるに違いないと信じている者もいる。例えコンピューターがその解決の糸口を示してくれたとしても、人類がそれに従うかは別だ。

 

遺伝子操作

2003年に世界で遺伝子解析の作業が終わると、世界中に遺伝子関連企業が雨後の竹のように生まれた。遺伝子キットが市販されるようにもなり、高額のお金で個人の遺伝子配列の全データを手に入れることもできる。ガン発症の可能性のある遺伝子を持った女優が乳房を切除してしまったという事例もあった。「遺伝子も命も金次第」を実践する新しい人種の誕生だ。世界で既に数千人を超えているらしい。いや、たぶん数万人に達しているに違いない。

しかし、遺伝子というものがまだまだ「未知の領域」である時期に、早計に判断を下して良いのだろうか?人間には植物と違い切除できない部位もある。「切除」は根本的な解決策ではない。例えガン化の可能性のある遺伝子を受け継いでいなくても、遺伝子の突然変異でガン発症の確率は高い。なぜなら、食品や環境に含まれるようになってしまった有害物質に日々我々は曝露しており、そうでなくても変化し続けるのが遺伝子の本質なのだ。

2019年3月18日、ついに日本の厚労省が“ゲノム編集食品”の認可を発表した。「遺伝子組み換え食品」よりも危険性の少ない「遺伝子操作技術」だからという理由らしい。

では、「ゲノム編集」と「遺伝子組み換え」ではどこがどう違うのか?技術的には大きな違いはない。「遺伝子組み換え」という言葉のイメージがすっかり評判を落としてしまったのだ。以前ノーベル賞をもらった日本人科学者も「日本人は遺伝子組み換え技術を理解していない」と著書で嘆いていた。これには驚いたが、理解したくない気持ちも理解してもらいたいものだ。

「遺伝子組み換え食品」の失敗は、「害虫や雑草に負けない遺伝子」を外部から持ってきて小麦やトーモロコシに組み込んだために、害虫や雑草がそれに負けじと頑張ってしまい、更に強力な農薬を散布する羽目に陥ってしまったからだ。その結果土壌は荒れ、人間の身体まで蝕むようになってしまったのだ。特にアメリカやアルゼンチンでは障がいのある子供達が大勢生まれている。

厚労省の言う「ゲノム編集食品」には、アミノ酸の多いトマト、太った真鯛、収穫量の多い稲などがある。アメリカは去年からこの種の食料品の規制は解かれたが、欧州では司法裁判所が遺伝子組み換え食品と同様に規制する方針を示した。

 

地球外移住

人間の夢は果てしない。だから今があるのだ。ドラえもんやアトムが描いた世界は今や現実のものとなっている。さすがに時空を超える「どこでもドア」は難しいが、それ以外のものは着実に現実化しつつあるのだ。

2018年3月に亡くなった天才物理学者ステイーブン・ホーキング博士は、これから600年のうちに地球は火の玉と化すだろう、と言った。それは自然災害が原因ではなく、人間の起こす戦争によって、だと言う。

我々一般人はこれを人類への警告と受け取るが、物理学者は彼からの遺言と受け取るらしい。巨額の費用を投じて宇宙開発事業に乗り出したイーロン・マスク。そんなお金があるならアフリカの貧困にあえぐ人々を全員救済できるだろう、と批判を浴びている。しかし、宇宙への夢は止まらない。

宇宙開発事業は可能性のある天体を探し回っている。しかし、まだまだこれといった手ごろな物件は見つかっていない。手っ取り早いのは人工の居住地だ。上の写真(ウイキペディアより引用)のようなスペースコロニーというものだ。

地球で生まれ育った人類が宇宙で暮らすためには、たくさんの難問を解決しなくてはならない。重力、放射線、大気、温度管理・・・際限がない。人間が人間としてあるこの身体は、地球環境にあるからこそ成立している。重力がなければ人間としての形を保つことすらできない。人工重力発生装置が開発されているようだが、まだまだ小さなものだ。

人間の身体に適応する環境を作ることよりも、宇宙の環境に適応する人間を作り出す方が手っ取り早いだろう。そんなことを考える科学者が現れても不思議ではない。すでに初の人工生命体“ミニマル・セル”が誕生している。マリモのように丸い藻のようなものだが、立派に生きている。

1000年後には人類は宇宙で暮らしているに違いない。しかし、そこに住んでいる人間は、既にホモ・サピエンス・サピエンスではない可能性もあるのだ。

 

地球という生命の謎

地球に帰還した宇宙飛行士が良く口にするのは、「地球は生きている」という言葉だ。これは船外に見えた美しい地球への単なる誉め言葉ではなく、本当に「生命体としての地球」を感じるという事らしい。

2015年に画期的な書物が出版された。『物は知性をもっているー20の感覚で思考する生命システム』という本だ。2017年には続編の『植物は未来を知っている』が発刊となった。

植物学は長い間日陰の存在だった。しかし、ナノテクノロジーの進歩によって植物の驚くべき生態が明らかになってきたのだ。植物の根は高性能の計算センターであり、葉の表皮細胞は視覚、嗅覚等で外界を感知している。1800年代にダーウィンが気付いた「根の先端部分の感覚能力」が実証されたという事だ。下の写真は痛みのシグナルを発している植物の葉(カラパイアより引用)だ。

世界中の環境問題に取り組む研究所では、植物や特に樹木などが二酸化炭素を調整している実態を明らかにしている。太古の昔から植物は地球を生成し、あらゆる生命を育んできた。いくつもの氷河期を乗り越えてきたのも植物のおかげだそうだ。

地球に存在する生命体を100とすると、人類が占める割合はわずか1%にしか過ぎない。そのわずか1%の生物が我が物顔で地球の表面を煌々と照らしている。宇宙飛行士はこの闇を照らす光に魅了されたのではないだろう。

「地球は生きている」という言葉は、たくさんの生命体の息吹を実感したからではないだろうか?これからの数十年に地球生命体の謎はますます解明されていく。地球を形成する生命体に共通するものは何だろうか?

それは決して「破壊」ではない。むしろ、地球の90%を占める生命体である「植物」が教えてくれる「共生」「共存」「受容」ではないだろうか?これが「人類のパラダイムシフト」のカギになる筈だ。