面白い本を見つけたので紹介したい。
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英文のタイトル Inheritance How Our Genes Change Our Lives – and Our Lives Change Our Genes
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直訳すると=遺伝子 どのようにして我々のゲノムが人生を変え、人生がゲノムを変えるか =たぶんそんな意味だろう。もっと適切な訳があったら誰か教えてほしい。毎回不思議でならないのが、日本語訳のタイトルだ。これは、訳者と日本の出版社に選択権があるのだろうか?確かに「遺伝子は変えられる」というタイトルは日本人にはインパクトのあるタイトルだ。
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著者は シャロン・モアレム というノンフィクション作家。医学、神経遺伝学、進化医学、人間生理学の博士号を持つ。バイオテクノロジーや健康に関する特許を25件も取得し、バイオテクノロジー企業も2社創設している。作家であり、研究者であり、起業家でもある。彼の文章は臨床医もしているらしいために具体的で分かりやすい。「遺伝子」に対して抱く固定的な概念を簡単に打ち砕いてくれる。日本人には必須のアイテムになると思う。
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この本は2014年に書かれ、2017年に日本でダイヤモンド社から発行となっている。やはり日本語に翻訳されるまで3年はかかるのだ。訳者は 中里京子氏。訳も素晴らしい。
遺伝子は、変えられる。 あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実 [ シャロン・モアレム ] 価格:1,944円 |
『遺伝子は変えられる』はこんな本
これは、この本に書かれてあることの抜粋です。私は自分の学習のためにも、また忙しくて読んでいる時間がない方のためにも、敢えて長々と写し取っていきたいと思います。この本には沢山の病名、遺伝子番号、遺伝子の働き、化学物質名などが出てきますがそのまま記載します。著者は、今「遺伝子データ」の洪水の時代だ、と言います。私達もその洪水の波に立ち向かう心構えが必要です。この本は今世界が心酔している「遺伝子」というものに正しい判断が下せるようなヒントを与えてくれる本です。きっとあなたのお役に立つでしょう。(それぞれの着色は分かりやすくするために私が施したものであり、青色の文章は私の感想です。)
第1章 「顔」からゲノムを解き明かす
―「遺伝学者×医師」のちょっと失礼な仕事の流儀―
《医師に勧められた「健康的な食生活」でがんになった男》
「ザ・ステーキ」というあだ名のニューヨークのレストランでシェフをするジェフ。結婚前に血液検査をしたところ、高濃度の「低比重リポ蛋白コレステロール」(心疾患リスクの増大にかかわりのある悪玉コレステロール)と診断され、家族歴にも心血管疾患があることを見つけた医師は食習慣を変えることを指示した。ジェフは果物や野菜を多くとるようになり肉は赤身の肉だけを少量取るようにして真面目に改善に努めた。
それから3年経った頃ジェフは何故か体調を崩し始める。担当医が検査するとジェフは肝臓がんだった。彼は「遺伝性果糖不耐症(HFI)」という稀な遺伝病を持っていたのだ。この遺伝病は果糖が体内で完全に分解されずに、そのために「フルクトース2リン酸アルドラーゼB」という酵素が十分に生成できないために、毒性代謝物が体内とりわけ肝臓に蓄積されるようになる。ジェフには1日1個の果物が健康の素どころか命取りになるのだった。
*「遺伝性果糖不耐症」を抱える人は、人生のある時点で自然に果糖が大嫌いになる人が多い。(これが天然の予防策になっている。)そして自分でも理由が分からないまま、この種類の糖を含む食品を避けるようになる。
♥私にも覚えがある。急にトマトが食べたくなったり、肉が欲しくなったりする。風邪気味の時にはいつも生姜をたくさん入れたトムヤムクンスープを作って食べる。私達は知らずのうちに自分の細胞が出すシグナルに耳を傾けているのだ。♥
《あらゆる人が、突然変異を抱えている⁉》
ヒトゲノム塩基配列が解読されてから10年以上がたつが、今では世界中にいる人々のゲノムを全体または一部が判明しているが、「平均的」な人など一人も絶対にいないことが分かっている。実際に、遺伝的な基準値を作成する目的で「健康であるとみなした人々」全ての遺伝子配列に、それまで「健康的だと考えられていた配列」と「一致しない何らかのタイプの変異」が必ず見つかったのだ。
今日の医師は遺伝学を理解するだけでは足りない。それは遺伝形質の変化がどのように起きてどのように引き継がれていくか(エピジェネティックス)という学問の知識も必要だ。
《遺伝学者の診察室へようこそ》
遺伝学者は、身体の特徴を、特定の遺伝子疾患や先天的疾患と結びつけることによって、すぐに医学的診断がくだせる。
♦眼窩隔離症(がんかかくりしょう):(両目の間に架空の目を1個入れられるスペースがある遺伝病)これは心配しなくてよい遺伝病。離れ気味の目を持つ人の顔を感じの良い顔として評価する傾向がある。
♦眼瞼裂斜上(がんけんれつしゃじょう):(目尻が目頭よりも吊り上がっていること)アジア人の子孫の多くの人々にとってこれは全く正常なことであり自分達の特徴でもある。でも、それ以外の人の子孫にとっては、21番染色体のトリソミー[三染色体性。正常な一組(2本)の染色体に加えて1本多く染色体をもっていること]が原因の「ダウン症候群」のような遺伝病の特異的な兆候を示している可能性がある。
♦虹彩異色症(こうさいいしょくしょう): (左右の眼の色が異なる疾患=メラニンを作り出す細胞メラノサイトが胚の発育につれて移動する際、左右の目に不均等に分布してしまうことが原因)虹彩異色症による「青い瞳」は胎内発生時にメラノサイトがあるべき所に到達できなかったために生じる美しいエラー。しかし、青い瞳、色の抜けた白い髪、幅広い鼻梁、難聴があれば「ワーデンブルグ症候群」を疑う。これは細胞が胎児の脊髄から移行する方法に重要な影響を与えるPAX3遺伝子の変異が引き起こす遺伝病で、致命的な皮膚がんの一種である「黒色腫」に関与しているかもしれないと疑われている。
♦睫毛重生症(じゅうもうじゅうせいしょう):(まつげが余分に生えていること)FOXC2遺伝子の突然変異が関わる「睫毛重生症リンパ浮腫症候群」の症状の一つかもしれない。エリザベス・ティラーもその一人。
人間の顔というものは、遺伝学的に広大な未踏の地であることを示している。これまでの時点で、あなたは自分の顔に、遺伝病を示唆する特徴を少なくとも一つは見つけられたのではないだろうか。とはいえ、そうした特徴が実際に病気をもたらしている可能性は非常に低い。実は、どんな人でも何らかの「異常」を抱えている。
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