![]() |
遺伝子は、変えられる。 あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実 [ シャロン・モアレム ] 価格:1,944円 |

これは第4章からのつづきです。
この本には沢山の病名、遺伝子番号、遺伝子の働き、化学物質名などが出てきますが、そのまま転載します。(それぞれの着色は分かりやすくするために私が施したものであり、青色の文章は私の感想です。)
この本の「訳者あとがきから」
本書は、現役の臨床医師にして学術的研究者、かつ起業家及び世界で絶賛されるライターという顔を持つ、シャロン・モアレムの第3作だ。ベストセラーになった『迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか』と『人はなぜSEXをするのか?―進化のための遺伝子の最新研究』では、生物学、進化学、生理学、解剖学的、脳神経学、社会学から歴史までの知識を総動員して、おもしろおかしく、しかし真面目に進化医学にまつわる話を教えてくれた。さて今回の主要テーマは、ずばり「遺伝子は変えられる」。著者のもう一つの顔、遺伝学者としての真骨頂である。(中里京子)
第5章 遺伝子の口に合わない食事
―祖先の食生活、完全菜食主義者、腸内フローラから見えたほんとうの栄養学―
《遺伝子に強いられた菜食主義者》
個人の栄養ニーズに遺伝が与える影響を研究する分野は、ニュートリゲノミクス(栄養ゲノム情報科学)と呼ばれている。特定の栄養ニーズが遺伝子に左右されている何百万人の人々にとっては、レストランのメニューが地雷原に変わり、食料品店に並ぶ品々がむち打ち刑の執行者に変わってしまう。
OTC欠損症(オルチニン・トランスカルバミラーゼ欠損症=アンモニアを尿素に変えるプロセスが正常に働かなくなる遺伝病)を抱える人は、疾患に気づかないことがよくある。そういった人は、肉を食べると体調が悪くなると言い、たんぱく質豊富な食事を避けてきている。一般的にOTC欠損症の人は菜食主義者(ヴェジタリアン)になるか、卵も乳製品も取らない完全菜食主義者(ヴィーガン)になった方が楽だろう。
僕らの食習慣も、広く多岐にわたるスペクトルの上に存在している。身体も通常は、殆どのタイプの食物を消化することができる。しかし、その人の遺伝子構造とどうしてもなじまない食品というものもある。あなたの身体が好まない食物が存在する可能性も高い。
《なぜアジア人はミルクでおなかを壊すのか?》
僕らの食習慣は、元はと言えば、それぞれの遺伝的継承物を反映したものである。たとえばアジア人の血を引く人々の大部分にとって、ミルクと乳製品は、ただ単においしく感じられない食品どころか、消化不良を引き起こす食品になりかねない。というのは、歴史的に乳製品を作るための牧畜が盛んでなかった地域(アジアを含む世界の殆ど)では、成人期の乳糖不耐症が最も頻繁にみられるからだ。
逆に、もしあなたの祖先がミルクを手に入れるために動物を飼っていたとしたら、その祖先の遺伝子には突然変異が含まれる可能性が高い。そしてその変異が、今あなたの遺伝子を大人になってもミルクに含まれる乳糖(ラクトース)の分解酵素が生成できる素晴らしいマシンに変えている可能性が高い。
《遺伝子発現―栄養学のパズルを解く最後のピース》
人々の暮らしが興味深い方法で遺伝子に影響を与える例は、コーヒーを飲む喫煙者に見ることができる。タバコを吸う人はなぜあれほど大量のコーヒーを問題なく飲むことができるのだろうか?その答えは遺伝子発現に関係がある。
僕らの身体は、様々な毒を分解するのに、CYP1A2遺伝子(シップ・ワン・エイ・トゥ-遺伝子)を使っている。タバコには様々な有害成分が含まれているため、遺伝子に行動を起こさせるとてもうるさい警戒警報を鳴り響かせる。この遺伝子がオンになればなるほど身体はコーヒーのカフェインを分解しやすくなる。
もしコーヒーがあなたの遺伝子構造になじまないとしたら、緑茶を楽しめばいい。緑茶の場合は、ある種のがんを防ぐ可能性が示唆されている。最近「エピガロカテキン-3-ガラート」と呼ばれる、緑茶に含まれる強力な化学物質を乳がんの細胞に投与した研究者たちが、二つの重要な結果を手にした。
乳がん細胞がアポトーシス(細胞死)と呼ばれる細胞のプロセスによって自滅し始め、自滅しなかった乳がん細胞も成長速度が鈍くなっていたのである。
《腸内フローラで「脂肪をつかまえる」―ダイエットの遺伝学》
人間の腸は、びっくりするほど複雑な微生物の生物学的多様性が見られる場所だ。この巨大で小さな生態系における二つのメインプレーヤーは、バクテロイデス門とフィルミクテス門の微生物である。これら二つのグループに属するあらゆる種を合計したら、数百種の異なるタイプの微生物が手に入るが、個人の「微生物動物園」は、人それぞれ少しずつ違っている。
あなたの体の中に住んでいる微生物にとって、口から肛門までの9メートルの配管は正真正銘の惑星だ。そこは曲がりくねった世界で、その形をまねしたジェットコースターに乗ったら、最も手慣れのスリル狂でも真っ青になることだろう。そして次々に変わる環境の違いと言ったら、まるで海の底から火山の中や熱帯雨林の真ん中に飛び込むようなものだ。
♥♥私達の腸をこれほどまでに豊かな表現力で説明した科学者は、かつて存在した だろうか?私達の腸は「微生物動物園」。動物園の環境もすごい!♥♥
最近、上海交通大学の科学者たちが食生活の科学を根底から覆してしまった。何が起きたかと言うと、こうだ。ある病的に肥満した人(約175キロという体重は平均的なスモウ・レスラーなみだった。)の腸を調べていた科学者たちが、エンテロバクター属というグループに属す細菌が豊富に存在することに気が付いた。腸に数種類のエンテロバクター族の細菌が腸内フローラの35%までを占めていた。これはものすごく高い割合である。
そして、科学者たちは患者からこの最近の株を取り出し、無菌状態で育ったマウスの体内に入れた。その結果・・何も起きなかったのだ。次に、このマウスをマクドナルドに連れていったと同じように、脂肪と糖を山のように与えた。すると体重は順当に増えた。エンテロバクター族のいないマウスに同じ食事を与えても痩せたままだった。
肥満男性の食習慣が問題だったのだろうか?勿論そうだろうが、そのこと自体は、あれほど体重を増やした唯一の原因ではなかったかもしれないのだ。やがて僕らは、遺伝学と、食習慣と、微生物の特定の組み合わせを使って、局面を有利に変えられるようになるかもしれない。
ヒトの微生物叢(びせいぶつそう=微生物の集団のこと)を構成する微生物が健康に与える影響に対する人々の関心は、ヒトゲノムに対するものよりずっと低い。しかし、微生物叢はあなたが口にするものや受け継いだ遺伝子と同じくらい重要であることが、ますます明らかになりつつある。
だからこそ、微生物叢の健康にも関心を払った方が賢明である。これを実践する簡単な方法の一つは、石鹼、シャンプー、果ては歯磨き粉にまで溢れている抗菌製品の無差別使用に代わる手段について考えることだ。
【この章で取り上げなかった他の項目】
-
午前3時半の緊急呼び出し―なぜ「発熱」で遺伝学者が?
-
船乗りにレモンが必要な「遺伝学的理由」
-
ニュートリゲノミクスで知る、コーヒーを飲んでいいかどうか
-
シンディに「ナイフを使う遺伝子治療」は必要か?
-
遺伝が引き起こす知的障がいなんてあるのか?―母親と医師たちの戦いの記録
-
「かいじゅうの王様」リチャードの劇的な変化
-
ひとりひとりが違うからこそ、口にするものを考えよう