まず彼の作品の寓話(ぐうわ)から見てみよう!
(⁂寓話=擬人化した動物などを主人公に、教訓や風刺を織り込んだ物語)
柳宗元にはまさしくイソップ物語のような動物を擬人化した寓話が数点ある。
『三戒』(さんかい)=三つのいましめ
『三戒』には『臨江之麋』(りんこうのしか)『黔之驢』(けんのろ)『永某氏之鼠』(えいぼうしのねずみ)という三つの作品が収まっている。
『臨江之麋』(りんこうのしか)
臨江(今の重慶市の近く)という所に住む人が狩りで鹿を捕まえた。家に連れて帰ると犬がよだれを垂らして寄って来る。彼は犬を叱り、毎日鹿を抱いて犬に見せて仲良く遊ぶように訓練した。犬はその人の思い通りになり、鹿は成長すると自分が鹿であることを忘れて、犬を友達と思うようになりじゃれあって遊んだ。犬は主人を恐れて鹿と一緒に遊んでいたが、時には舌なめずりをしていた。三年後、鹿が門から出ると野犬が沢山いるのを見つけて一緒に遊ぼうと駆けていった。野犬はそれを見て喜々として吠え、みんなで鹿を食い殺し、この無法な乱暴は野犬には当然のことだった。鹿は死んでもそれを悟ることがなかった。
『黔之驢』(けんのろ)
黔州(今の重慶市内)にはロバがいない。物好きな人が舟で連れて来たが、役に立たないので山の麓に放牧していた。トラがこれを見て大きいので「神ではないか」と思った。林の中から様子を伺い、近づいても知らぬふりである。ある日ロバが鳴くとトラは驚いて、自分を噛もうとしたのだと思って震え上がった。だが、ロバを観察していると特別な能力もないことがわかり、その声にも慣れてきた。前や後ろに近づいてもつかみかかってこない。もっと近づき寄りかかったりぶつかったりして挑発すると、ロバはとうとう怒ってトラを蹴った。トラは喜んだ。考えて言った。「こいつの技はこれだけか!」トラは大声を出して吠えて飛びかかり、喉に嚙みつき、その肉を食べつくして、立ち去った。ああ!姿かたちも優れていて、声も素晴らしかった。その技さえ出さなかったら、たとえ獰猛なトラでさえ恐れていて、敢えて襲い掛からなかったものを!もう今となっては、悲しいかな!
『永某氏之鼠』(えいぼうしのねずみ)
永州のある迷信家が「私の生まれは子年で、ネズミは子年の神だ」と考え、ネズミをたいへんかわいがった。猫や犬を飼わず、召使いにもネズミを捕るのを禁じた。倉庫や台所はネズミの天下である。そのためネズミが大勢この家に集まってきた。腹いっぱい食べても危険なことがない。ネズミの被害で器具や衣服はボロボロになった。人の食べ物は大方ネズミの余り物である。昼は人についてぞろぞろ歩き回り、夜になるとガリガリと齧って暴れ回り、とても眠れたものではない。それでも某氏は嫌がらない。数年後、某氏は他州へ引っ越すことになった。やがて後人が来て住むとネズミの有り様は災いのようであった。その人は言った。「この陰の類は悪しき物である。盗み暴れることはなはだしい。どうしてこんなことになってしまったのか!」後人は猫を五~六匹借りてきて、門を閉じて、瓦をはがし、穴を掘って水を注ぎ、召使を雇ってネズミを捕まえた。殺したネズミは小高い丘のようになった。暗がりに捨てたが死臭は数か月に及んだ。ああ!このネズミたちは腹いっぱい食べ続けていても災いが起きないとでも思ったのだろうか!
訳文の引用 創文社出版 『柳宗元研究』松本肇著作 より
この『三戒』の物語は改革に失敗した柳宗元自身への戒めでもある。
他の寓話作品も見てみよう!『三戒』は短編だが、ほかの作品は少し長いので、あらすじだけ紹介しておこう。柳宗元の左遷されても続く不屈の闘志が垣間見えるだろう。
『鶻説』(こつせつ)=ハヤブサのお話 *鶻=ハヤブサ
長安にあるお寺にハヤブサが住んでいて、冬の夕方になると小鳥を生け捕りにして、朝まで自分の瓜や手のひらを温めていた。朝になると寺の塔に上がって小鳥を逃がしてやる。その後で小鳥が逃げた方向とは逆の方へ飛び去って行く。間違って恩ある小鳥を捕まえないようにするためだった。鳥獣でさえ「仁義の道」を知っているのに・・。
外見だけで人の判断を誤ってはならない、と批判する。
『罵尸蟲文』(ばしちゅうぶん)=“しちゅう”をののしる文
尸蟲(しちゅう)=虫のしかばね、悪さをする虫の名前=道教信仰から来る。庚申の日(こうしんのひ)の信仰(Wikipedia)参照
ある道士が言うには、人間の腹の中には三匹の虫が住んでいる。体を小さく縮めて曲がりくねって入り組んだ所に住んでいる。姿はヨコシマで中身は邪悪でできている。人の才能を妬み、人の失敗を願っている。人が眠ったのを見計らい、急いで体から出ると、帝の下に走っていき、ある事ないこと告げ口をする。・・やがて聡明な帝がこの三匹の虫をやっつける、というお話し。
柳宗元は尸蟲の行動を「政治の世界における讒言の横行」に例えて批判する。「国家論」を論じるかたわら、憂さ晴らしに“蔓延する不正”をテーマに物語で追撃する。