主役の座を射止めた『合成生物学』
合成生物学(synthetic biology)はまさしく生物を合成する学問だ。構成生物学とも呼ばれている。特に目新しい学問ではないけれど、ゲノムの塩基配列解読以降の生物工学や遺伝子工学の急速な発展の結果、合成生物学が今頂点に立つようになった。
生物工学はクローン技術や遺伝子組み換え作物で倫理的な批判を浴びたが、組み換えインスリンの認可やヒト遺伝子の治療が開始されている。耐性遺伝子組み換え作物(雑草に強いトーモロコシや大豆の栽培)はより強い雑草の誕生を呼び、対抗するための強力な農薬の散布で大きな被害を産んでいる。
合成生物学はそれらの失敗から(科学者は失敗とは決して言わない)基本的な技術の確立に重点を置いている、らしい。「生命を創る」ことで生命システムをより深く理解できる、という視点から急速に発展した。
どうやら、「遺伝子組み換え」という言葉に世界中の人々はアレルギーを覚えるようになってしまったようだ。合成生物学では「遺伝子改変」と言っている。大きな違いはないようにも思えるが、技術的には「遺伝子ドライブ」と呼ばれる新たな技術が利用されるようになっている。
しかし、合成生物学というネーミングは何だかキナクサイ匂いのするネーミングだ。倫理面や安全面での心配事は依然として変わらない。いや、もっと大きな問題が提起されるようになった、と言った方がよいかもしれない。より問題がはっきりしてきたと言うべきか。これが人類を輝かしい未来に導けるか否かは私達次第なのだ。
過去に科学の暴走が人類に残した「負の遺産」がある。「核廃棄物」だ。私達はそのことから学び、少しは賢くなったのだろうか?

1.合成生物学のもたらす輝かしい未来と悲惨な未来
《輝かしい未来》
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食料に困らなくなる。地球の人口が100憶人を突破しても飢える人々はいなくなる。・・・生物そのものを作り出すことができるから。(実がたくさん生るトマト、筋肉増量の肉類、などの遺伝子改変による生産がすでに始まっている。)
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地球がもたらす恩恵(石油、天然ガス等々)を消費しなくてもよくなる。・・・新たな生物エネルギーが開発されるから。(藻類でのバイオ燃料の開発が既に開始されている。)
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人類を病原菌から守れるようになる。・・・マラリアやデング熱などの病原菌を媒介する蚊を撲滅できるようになるから。(研究室ではすでに撲滅が成功している。)
《悲惨な未来》=仮定
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地球の生物多様性が破壊される。・・・予想もしなかった事態が発生し、地球上の生命システムに異常をきたすようになるかもしれないから。
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遥かに耐性の強い病原菌の発生で人類が絶滅する。・・・遺伝子改変された蚊やネズミが原因で更に強い毒性を持つ生物が誕生するかもしれないから。
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軍事産業がAIと合成生物学を牛耳るようになり不滅の生物兵器を作り出し第三次世界大戦が勃発する。・・・すでにアメリカの軍事予算はこれら新たな遺伝子産業のバックボーンとなっているから。

2.悪意を包囲するガイドライン
人類は既に「神の領域」の扉を開けてしまったのだ。「命を創る」「生物種を簡単に消去」する技術を手に入れたのだ。誰もがそのことに危機感を抱いている。
世界中で多くの条約、基準、ガイドライン、申し合わせ事項が決められた。法的な拘束力があるのもあれば、全く影響力のないものもある。
それでも、人類は多少は進歩したのではないかと希望が見えてくるような気がする。情報化時代は一般市民にも学ぶ機会を提供してくれた。公的な機関で市民も巻き込んだ議論が開始されている。
つづきを読む・・・未来についての学習ノート②―遺伝子ドライブ
【参考資料】
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『合成生物学の衝撃』 著者:須田 桃子(毎日新聞科学環境部) 出版社:(株)文藝春秋 2018年4月15日発行
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Wikipedia-合成生物学
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