『遺伝子ドライブ』って何?
遺伝子ドライブ(gene drive)とは、特定の遺伝子がかたよって遺伝する現象のことを言う。例えばオスだけが、あるいはメスだけが産まれる状態の事。
とても分かりやすく説明しているのが、2016年に「TED」の壇上に上がった生物学者のジェニファー・カーンの講演だ。
《一つの生物種全体を永久に変えてしまう遺伝子編集》
まず、マラリア耐性遺伝子と遺伝子ドライブという二つのツールを組み込んだ蚊を二匹作る。この蚊には判別がつきやすいように目が赤くなるように遺伝子を組み換えた。

次に、この二匹の蚊を今度は普通の白目の蚊30匹が入っている箱に入れて繁殖させた。そして2世代の後に孫が3、800匹生まれた。


結果は?メンデルの法則からすると孫たちはみんな白目の蚊になる筈。ところが、驚くべきことに、孫の3,800匹全部が赤目の蚊になっていた。

何故、そうなってしまったのか?ジェニファー・カーンの答えは、CRISPR(CRISPR/Cas9のこと)と遺伝子ドライブという二つのツールを生殖細胞に使ったためだと言う。これが、止まることを知らない遺伝子編集マシーンとして働いた、という事のようだ。ということは、孫の3800匹全部がマラリア耐性遺伝子を持ったということなのだ。
彼女の話では、マラリアを運ぶハマダラカのほんの1%にマラリア耐性遺伝子ドライブを入れると、研究者の見積もりでは、1年で集団全体に広まることになるそうです。わずか1年でマラリアを撲滅できる可能性があるという事なのだ。
CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)とは?
「クリスパー・キャスナイン」という遺伝子改変に使用される技術があり、2012年に開発されてからはもっぱらこの技術が用いられるようになった。CRISPR/Cas9については【図解:3分で解説】のブログをお勧めします。とても分かりやすく書いてあるので、私にも理解できるようになりました。
《野生個体群への応用が始まった遺伝子ドライブ》
何となく「遺伝子ドライブ」のイメージがつかめたでしょうか?「TED」でのジェニファー・カーンの話は彼女の研究発表ではなく友人アンソニー・ジェームズという生物学者のことです。彼はマラリアで一日に千人もの子供の命が奪われていくのを防ぐために研究をしてきたのです。
しかし、「遺伝子ドライブ」はとても強力なツールのため、生命倫理を侵す危険もあります。例えば、自然界に放たれた人工的に改変された生物が、途中でまったく異質なものに変異することはないのだろうか?あるいは種の垣根を超えて「異種交配」を行ない、想定外の事態が引き起こされる危険はないのか?また「遺伝子ドライブ」自体が周囲の環境に影響をもたらすことはないのか?
《 動き出した「遺伝子ドライブ」技術 》
♦ニュージーランドが本土から8種の侵略的哺乳類捕食動物(ネズミ、オコジョ、ポッサムなど)を完全に排除する計画を遺伝子ドライブ技術で行うことを発表。(2017年)
♦オーストラリアとテキサスの二つのグループが遺伝子ドライブを使用して「オスしか生まれないマウス」技術の予備研究を発表。
♦ビル&メリンダ・ゲイツ財団が2016年に、アフリカのどこかに実際に使用できる準備が出来ていると「遺伝子ドライブ技術」に7500万ドルを投資。
それで本当に大丈夫なのか、ニュージーランド?確かに、ニュージーランドには希少動物が沢山いるが、このグローバルな世界で外来種を根絶することは可能なのだろうか?これ以上ニュージーランド独特の生態系を破壊させないための応急措置?しかし、駆逐するのは外来種のネズミだけ?それともネズミ全部?ネズミがいなくなったら鳥さんや小動物も困らない?生態系が更に悪化しないのか?
暴走する科学者が存在する一方、誠実に社会貢献しようと誓う科学者も大勢いる。次回は真摯に取り組む研究者や市民の動きに注目してみたい。
【外部リンク】
【参考資料】
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Wikipedia-遺伝子ドライブ
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TED 2016.5.9 ジェニファー・カーン 「一つの生物種全体を永久に変えてしまう遺伝子編集」