オオバンの僕: 「変だなあ、この辺だと思うんだけど・・僕が生まれた場所・・・。」

オオバンの僕のすぐ上の姉: 「ホントに、ここなの?」
オオバンの僕: 「ああ、確かにこの岸辺だと思うんだ。」

オオバンの僕のすぐ上の姉: 「だって、よく見てご覧なさいよ。こんな人目に付く所に、うちらのお父さん、お母さんが巣をつくるかしら?」
オオバンの僕: 「う~ん、でも・・・お母さんの匂いがするんだよね。どうしてもするんだ。」
オオバンのすぐ上の姉: 「そう・・あんたが言うんなら・・。うちらの一族じゃ一番の鼻利きさんだもんね。」
オオバンの僕: 「そんなことないけど・・。懐かしんだ・・お母さんが。」

オオバンのすぐ上の姉: 「でも、いつも中洲に巣をつくってない?ほら、たとえば、去年の夏はあそこに中洲があったでしょ?」
オオバンの僕: 「ああ、いつも鮎釣りしてる近くでしょ。でも、あそこは人間が来るからないと思うよ。」

オオバンのすぐ上の姉: 「冗談よ。たぶん私達の巣は嵐山の近くだと思うわ。」
オオバンの僕: 「えっ、そうなの?それじゃ、なんでここが匂うの?」
オオバンのすぐ上の姉: 「わからないわ、そんなこと。でも、なんで急にそんなこと言い始めたのよ。」
オオバンの僕: 「だって、今年僕にもこどもがうまれただろ?そしたら急にお父さん、お母さんのことが懐かしくなって・・・。」

オオバンのすぐ上の姉: 「そうなの。そしたらみんなにも匂いを嗅いでもらって確かめましょうよねっ。ちょっとみんな!」
オオバンの僕: 「姉さん、そんな大きい声で・・恥ずかしいよ。」

オオバンのすぐ上の姉: 「いいじゃないの。みんな同じ親の子供なんだから。お父さん、お母さんの匂いがするか、嗅いで見て!」
オオバンの僕の他の二人の兄弟: 「くん、くん。」

オオバンのすぐ上の姉: 「もっと、集まって!!お母さんの匂いがするって!」

オオバンのすぐ上の姉: 「もっともっと集まって!!全員来てちょうだい!!」
オオバンの僕の兄弟姉妹の全員: 「くん、くん、くん、くん。」

オオバンの僕の一人の弟: 「ああっ!ここ匂う!」
オオバンの僕の一族たち: 「どこどこ?」

オオバンの僕の他の兄弟姉妹: 「ああ!見つけた!匂いだ!ほんとだ!お母さんの匂いだ!」
オオバンのすぐ上の姉: 「そう言えば、そうねえ。確かに。ほら、羽にこすりつけて匂いを嗅いでご覧なさい。」

そこでオオバンのすぐ上の姉は考えた。何故この岸辺がにおうのか?そして思い出した。2年前に嵐山で河川工事を行っていたことを両親に聞いたことがある。あの時に何年も使っていた巣が壊されたのだ。

オオバンの僕のすぐ上の姉: 「そうよ、それで分かったわ。その土がここに盛られたのよ。そうよね、お兄さん。」
オオバンの僕の一番上の兄: 「ああ、そうかも知れないね。あの時の台風は大きかったからね。僕らは巣作りに苦労するね。だから準絶滅危惧種なんだ。もう少し僕らの事も考えてもらいたいもんだよ。」
オオバンの僕: 「そうか、やっぱり僕らの巣だったんだ。やっぱりな、僕らには桂川が故郷なんだ。」

おわり