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遺伝子は、変えられる。 あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実 [ シャロン・モアレム ] 価格:1,944円 |
『遺伝子は変えられる』(抜粋)① からつづく。
この本には沢山の病名、遺伝子番号、遺伝子の働き、化学物質名などが出てきますが、そのまま転載します。この本は、今世界が心酔している「遺伝子」というものに、正しい判断が下せるようなヒントを与えてくれる本です。(それぞれの着色は分かりやすくするために私が施したものであり、青色の文章は私の感想です。)
第2章 遺伝子が悲劇をもたらすとき
―アップル、コストコ、デンマーク人の精子提供者が教えてくれた「遺伝子発現」の仕組み―
《同じ遺伝子変異を持つのに、全く違う症状に襲われる双子―表現度の差》
メンデルは科学に偉大な貢献をしたものの、重大なことを見過ごしてしまった。それは「表現度の差」である。例えば、アダム・ピアソンとニール・ピアソンの一卵性双生児の例を見てみよう。この兄弟は神経線維腫症Ⅰ型を引き起こす遺伝子の変異を含む、区別不能なゲノムの保有者であると考えられている。アダムの顔は変形し膨らみ、一方ニールの顔はトム・クルーズ似だが記憶喪失と不定期の発作を抱えている。同じ遺伝子なのに全く異なる表現型。
このように「なぜ表現度に差があるのか」、その答えは、遺伝子は僕らの人生で白か黒かの反応を見せる訳ではないことにある。たとえ遺伝子が不動であるかのように見えても、遺伝子が発現する方法は、不動どころではないのだ。
《モーツアルト、ジャズクラブ、DNA―「遺伝子発現」とは》
現代の音楽家がモーツアルトの指示を読んで、ほぼ完璧なまでにその曲を再現し、そこに隠された複雑さをつまびらかにするのと同じように、遺伝的財産は僕らの人生の音楽を綴る楽譜であるとみなされている。
しかし、僕らの人生には、即興演奏を行う余地が十分にある。テンポ、音色、トーン、音量、強弱は変えられる。微小な化学プロセスを通して、あなたの身体は各遺伝子をちょうど音楽家が楽器を使うような方法で使っている。それは大きな音で弾くことも、優しく弾くことも、急いで弾いたりゆっくり弾いたりすることもできる。さらには必要に応じて異なる方法で弾くこともできるのだ。これが「遺伝子の発現」だ。
音楽家が人生経験と現在の環境を集大成したものを楽器の弾き方に反映させるように、僕らの細胞も、それまで成されてきたこと、そして現在あらゆる瞬間に成されていることによって導かれて-発現して-いるのだ。
♥これは芸術家の言葉ではありません。臨床医として日々遺伝病と戦っている医師の言葉なのです。文字にしてみてあらためてこの本の素晴らしさに感動します。
《遺伝子は、変えられる。今この瞬間から。》
随意運動は脳からの信号によって引き起こされる。それは、神経系を通じて、発火する下位運動ニューロンに送られて、筋線維に到達する。筋線維の中では、アクチンとミオシンと呼ばれるタンパク質が生化学的なキスをして、化学的エネルギーを物理的な作業に変える。それに伴い遺伝子は脳に行動を指令されるたびに必要となる化学材料の再備蓄に取り掛からなければならない。
思考もまた、常に遺伝子に影響を与え続ける。遺伝子は細胞機構をあなたが抱く期待と実際の経験に合わせるために、長い年月をかけて変わっていかなければならない。あなたは記憶を築き、感情を抱き、将来を予測する。それらすべては、古い本の余白に書き込まれたメモのように、あらゆる細胞内にコードされる。
このことを可能にする何百兆という脳内のシナプスは、単にニューロンと細胞の接点だ。情報を伝達する信号は時間が経つにつれて置き換えられる必要があり、身体が作り出す化学物質を微量受け取る必要がある。そして、ニューロンの多くは、何十年も前から存在している結合を維持することに加えて、常に新たな結合を模索している。
《環境に合わせて生き抜く力は、遺伝子にこそ宿っている》
キンポウゲ属の「ラナンキュラス・フラベラリス」は一見するとたいした植物には見えない。だがこの植物は、どれだけ水辺に近い所にいるかによって、完全に姿を変える。この特徴は「異葉性」と呼ばれるものだ。

このキンポウゲは遺伝子の発現によって葉の形を完全に変える能力を身に着けている。その葉は普段は丸みを帯びているのだが、川が氾濫すると細い糸状に姿を変えて水の表面に浮かぶ。この変化が生じても、キンポウゲのゲノムが変ることはない。こうした変化はみな生き残りのための戦略なのだ。
「遺伝子発現」は植物、昆虫、動物のみならずヒトでさえ、生きる上で出会う荒波を潜り抜けるために採用しているサバイバル戦略だ。そしてそれらすべてに共通する鍵は、フレキシビリティー、つまり柔軟性である。
メンデルが彼のえんどう豆にみいだせなかったこと、そして彼の後に続く何世代もの遺伝学者が見逃してきたことは、遺伝子が僕らに与えるものだけが重要なのではなく、僕らが遺伝子に与えるものも重要だという事実である。
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