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遺伝子は、変えられる。 あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実 [ シャロン・モアレム ] 価格:1,944円 |
これは第5章からの続きです。
この本には沢山の病名、遺伝子番号、遺伝子の働き、化学物質名などが出てきますが、そのまま転載します。(それぞれの着色は分かりやすくするために私が施したものであり、青色の文章は私の感想です。)
第6章 薬が効くかどうかも遺伝子次第
―鎮痛剤で死んだ子と5000歳のイタリア人が変える医療の未来―
《なぜメーガンは痛み止めで命をおとしたのか?》
発育または健康に欠かせない情報を宿すDNAの一部の欠損は、特定の症候群として現れる可能性が高い。しかし、DNA遺伝物質が重複している時には、それがどう現れるかは必ずしも明らかではない。
メーガンという幼い少女が、所定の扁桃腺摘出術の後に死亡した。その理由は麻酔の所為でも手術の所為でもなかった。それは、彼女が受け継いだゲノムにおける非常にわずかな重複の所為だった。メーガンは、CYP2D6(シップ・トゥー・ディー・シックス)という遺伝子のコピーを、ほかの人と同じように両親から1個ずつ受け継いで合計2個持っていたのではなく、合計3個持っていたのだった。
メーガンは何百万人の患者と同じように、手術後にコデインという薬を与えられた。しかし、メーガンは遺伝的に受け継いだものにより、少量のコデインが体内で大量のモルヒネに変わってしまったのだ。
アメリカ食品医薬品局は2013年に、子供の扁桃腺摘出術とアデノイド切除術の後にコデインを使用することを禁じた。
現在医薬界が進んでいる方向は、あなたが遺伝によって受け継いだものに適した薬の平均的推奨投与量を導き出すのではなく、あなたの多岐にわたる遺伝因子を考慮して、あなた用に―あなただけのために―導き出した投与量を処方するような世界だ。
《サプリメントは万人に効く、は大きな間違い》
予防医学のパラドックスの例は、LDLコレステロール、つまり「悪玉」コレステロールの値が高い人が魚油のサプリメントを摂取し始めた最初の数週間に見られる。
研究者たちはヘルシーな魚油(サバ、ニシン、マグロ、オヒョウ、サケ、タラ肝油等々)のサプリメントを摂取する人のうち、APOE4(エイピーオーイー・フォー)という遺伝子の変異体を持つ人は、実際にはコレステロール値が上昇していたことを実証した。
つまり、魚油のサプリメントは、どの遺伝子を受け継いでいるかによって、コレステロール値の変化に恩恵が得られる人と、ひどい悪影響を被る人がいるのだ。
アメリカ人の半分以上は、毎日サプリメントを口に放り込んでいると推定されている。額にして何と年間270億ドルを支払い、病気を予防し、病気を治そうとしているのだ。
《妊婦がかかる「謎の病」の原因を暴いた「サルの手癖」》
世界中の先天性欠損症をなくす上で最大のブレイクスルー(進歩)の一つを導いたのは、ルーシー・ウイルスと彼女のサルだった。ルーシーは妊娠性巨赤芽球性貧血という病気を研究し、原因は貧しい女性に多く、食習慣に関連があるのではないかと疑った。
ルーシーはインドで織物工の女性の状況を調べ、健康的な食生活で問題が解決することは分かったが、欠けている栄養素を突き止めることができないでいた。そんなある日、彼女の実験用のサルがマーマイトに手を伸ばしたのである。
マーマイトは濃縮醸造用酵母からできた濃い褐色のペーストでパンに塗ったりして食べる。マーマイト抜きではどこにも出かけられないという人も多く、特に二つの世界大戦での英国陸軍の必需品だった。
マーマイトをたっぷり舐めた後に、奇跡的な回復を見せたサルは、この病気を治す秘訣を与えた。妊娠中に十分な「葉酸」を得られない女性はその為に貧血になっていたのだ。
1960年代になると、葉酸の欠乏と胎児の神経管欠損症(NTD)との関連性が確かなものとなった。この病気は、二分脊椎(脊椎の左右の骨が癒合せずに分裂している状態)の患者に見られるような中枢神経系に異常な開口部ができるもので、比較的良性のものから死に至るじゅうとくなものまで、様々な症状が引き起こされる。
《5000歳のイタリア人ミイラが教えてくれること》
その遺体は損傷し、ひどく腐敗していた。オーストリアとイタリアの国境に近いエッツタール・アルプスでハイカーが出くわしたとき、彼らは数シーズン前の遭難者を発見したと思った。
遺体を山から降ろすのに何日もかかり、麓に到着すると、その遺体は少なくとも5,300年前に生存していた類を見ない程保存状態の良いミイラだったことが分かった。彼は「エッツィ」と名付けられた。(「アイスマン」とも呼ばれる。死因は左肩の軟組織に矢じりが突き刺さった後、後頭部を一撃されたことによるもの。)

それから数十年が経ち、ゲノムの観点から言って本当に面白くなってきたのは、エッツィの左臀部から小さな骨片を採取した後だった。彼はアルプス山脈北部で発見されたものの、彼に最も遺伝的に近い、今日生存している親類は、そこから450キロも離れたサルデーニャ島とコルシカ島に住む人々であることが分かった。
彼はまた肌の色が白く、瞳の色は茶色で、血液型はO型だったと思われる。そして乳糖不耐症があり、心血管疾患で命を落とす遺伝的リスクにさらされていた。
5000年以上前にアルプスをうろついていた人からそれだけ多くの情報が引き出せるとすれば、今日生きている人についてどれほどのことが分かるかは、推して知るべしだろう。
包括的な遺伝子検査や遺伝子配列の解析が利用できない人にも、ローテクの選択肢はある。それは、普通の家系図を作るだけで数多くの貴重な情報を得ることができる、というものだ。
遺伝子の無数の相互作用がもたらす複雑な病気を分類しようとするときには、どんな情報でも鍵になる可能性がある。実は、よく記述された医学的家系図に勝る情報はないのだ。
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