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遺伝子は、変えられる。 あなたの人生を根本から変えるエピジェネティクスの真実 [ シャロン・モアレム ] 価格:1,944円 |
この本には沢山の病名、遺伝子番号、遺伝子の働き、化学物質名などが出てきますが、そのまま転載します。この本は今世界が心酔している「遺伝子」というものに正しい判断が下せるようなヒントを与えてくれる本です。(それぞれの着色は分かりやすくするために私が施したものであり、青色の文章は私の感想です。)
第7章 右か左か、それが大事だ
―生命というオーケストラの指揮者が奏でる遺伝子のハーモニー―
《利き手と遺伝子に関係はあるか》
利き手や利き足が左だったり右だったりする理由は、脳の発育早期における重要な時期に関連があると考えられている。「個性化」と呼ばれるこの現象の最も人気のある説明は、脳の右半球と左半球が機能的に分かれて進化してきたことに関するものだ。それぞれが異なる労働を分担することにより、僕らは同時に複数の作業をこなすことができるのだ。
クラー(アメリカ国立がん研究所の上級調査官)は、この左右性には遺伝子、それもおそらくたった1個の遺伝子だけが直接かかわっているという見解の提唱者だ。この仮説に代わる考えは、左利きの人は何らかの神経障がいを発育時または分娩時に被ったために、そのことが脳の配線方法に影響を与えて左利きになった、というものだ。
しかし、左右性とは異なり、僕らの身体の発生時に生じる解剖学的な計画の遺伝学的根拠については、もう少しで理解できるところまできている。つまり、心臓と脾臓が体の左側に来るよう、そして肝臓が右側に来るようにするために、どんな遺伝子が一生懸命働いているのかという事が分かり始めているのだ。この遺伝学的理解は、次で取り上げる質問に答えを出すのを助けてくれる。
《「心臓は左側」を決めるタンパク質の“触覚”》
左右を決めようとする身体を遺伝子がどのように助けているのかについてしっかり理解するために、お母さんの子宮の中で人生の冒険を始めようとしている胚の状態にまで、時間をさかのぼることにしよう。
3次元の発生を始める際には、将来の身体のつり合いが確実に維持できるようにするため、微妙な成長のバランスを取る必要がある。この不均衡なバランスの興味深い特徴は、あらゆることを不具合にするには、全てをいじる必要はない、という事だ。
遺伝子の奥底にコードされた類似構造が発生に不可欠な役割を果たし、正しい遺伝子が正しい時に発現するような環境を築く。とは言っても、大方の読者にとって、この構造はおそらく初めて聞く名前に違いない。
それは、胚発生時期(あなたがお母さんの子宮内で潰れたガムみたいな形をしていたとき)に現れる「ノード繊毛」と呼ばれるものだ。ノード繊毛は、その極めて重要な時期に、後にあなたの頭になる部分から、小さなタンパク質の触角のように突き出している。

ノード繊毛は発生中の胚の周囲で、体液(羊水)を動かして(ある状況では体液を感知して)、必要とされている化学物質の濃度勾配を空間の中に作り出す。このように繊毛は単純だが絶対に欠かせない存在だ。
つまり、体液を特定の方向に動かして、胚の周囲に渦巻きのような流れ作り出す。これを受けて、浮遊しているタンパク質の量が正しい順序で変化し、それが遺伝子発現を通して、適切な時期に身体部位の発生を導くのだ。
どの器官を手に入れるかについて体の右側と左側で交わされる壮絶な闘いで、僕らの遺伝子は「レフティ2」「ソニック・ヘッジホック」「ノーダル」などという粋な名前が付けられたタンパク質をコードする。こうしたタンパク質が、個性化という領域で、首位をつかむことを目指して決着がつくまで闘い続けるのだ。
しかし、ノード繊毛が遺伝子変異によって正常に機能しないと、体の発生のバランスは完全にひっくり返ってしまう。もし、ソニック・ヘッジホック・タンパク質が通常の限度を超えて多量に押し寄せるという悪さをしでかすと、いわばそれが脾臓を食べてしまうために、脾臓を持たない人間が出来てしまう。そしてソニック・ヘッジホックに負けじとレフティ2も悪さをして自ら機能不全に陥ると、脾臓が二つ以上作られる。これは多脾症と呼ばれる疾患だ。
《地球は「左利きのアミノ酸」をひいきする》
組み合わさっている何百万種類もの異なるたんぱく質を作り出す20種類のアミノ酸について考えてみよう。僕らの身体は最も基本的なレベルで、アミノ酸を身体に形と機能を与える構成要素として使っている。アミノ酸が連結される特定の順序は、遺伝子が提供して翻訳する情報に応じて異なる。DNAの文字が1個変わるだけで、タンパク質を作るために使うアミノ酸が変わり、タンパク質が機能する能力も完全に変わってしまうことがある。
アミノ酸(唯一の例外であるグリシンを除く)は「キラル」 (対掌性)だ。これは、右利きのアミノ酸と左利きのアミノ酸があることを意味する。右利きのアミノ酸に別段悪い所はない。左利きと全く同じようにふるまうことができる。しかし、なぜか、この惑星の生物界では左利きが優遇されるのだ。
2000年の冬、カナダ北西部にあるタギシュ湖に隕石が落ちた。その破片を回収した後、NASAの科学者たちは検体を湯の中に入れた。そしてその後、、分子を少しずつ分離していった。すると、驚くなかれ、アミノ酸が見つかったのである。彼らはさらに研究を続け、左利きのアミノ酸と右利きのアミノ酸を分け始めた。その結果見つかったのは、右利きをずっと上回る数の左利きのアミノ酸だった。
地球上で左利きのアミノ酸が優勢である理由は、はるかかなたの銀河に由来しているのかもしれない。
*感想:私はこの本を読めば読むほど、一家に一冊この本を抱えておくべきだと思う。今世界に蔓延する「サプリメント」についても、しっかりと書かれてある。また、妊婦さんにとっても必読書である。最後の「サプリメントの項目」では、「自然は僕らが実際に必要とするビタミンEの優秀な裁定者である」と言っている。特にこの章では、私達の身体が想像を絶する程の複雑な過程を経て作り上げられていることを、強く思い知らされる。そのことに気づいたとき、私たちは一層自分自身を大切にしなければ、という気持ちを強くすることになるのだ。
【この章で取り上げなかった他の重要な項目】
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落ちぶれた「グーフィー」サーファーの伝説
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「酔っぱらった指揮者」に生まれ来る子供の運命を委ねられるか?
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「繊毛病」と内臓の逆位、そして医師たちの新人いじり
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身体の中で最も重要なのに、研究されていないもの
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食事の摂り方こそが最高のサプリメント
“外部リンク”
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JT生命誌研究館 生命誌ジャーナル92号
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Wikipedia ―「キラリティー」
次の 第8章 につづく。